水口京子選
1.梅がたり-まほし
2.花-door
3.ノイズ-door
(順不同)
■総評
水口の独断と嗜好で選ばせていただきました。
他にも素敵な詩はたくさんあったのですが、
あたたかくて愛らしい詩たちは、水口は照れくさくて俯いてしまうのであります。
ご容赦ください。
1
梅がたり - まほし
あ・・・・
今、
どこかで
梅が咲いた
月明かりの下で
梅が開いた
俯いていても
塀に囲まれた
夜道を歩いていても
梅のほころびが
目に見えるようにわかるのは
琴の余韻のように流れてきた香りが
この胸の戸口を叩いたから
梅はものがたる
自分が根ざす庭の佇まいを
その家で暮らす人々の温みを
どこにでもありそうで
そこにしかない
灯かりが滲むのを
とぷん・・・・と
湯垢の匂い
土鍋の煮える気配
そして
幻をくゆらせるように咲く花
暗闇に灯る
ろうそくの炎のように
一点からあたたかな波紋をひろげる
香りが
底冷えの庭を
凍りついた塀を
飛び越えて
この町を旅人のように歩く私にも
ものがたりを
垣間見せてくれたのでしょう
胸に手をやると
戸口の奥から
なつかしい
父さんと母さんの
声
指の隙間から零れる
ほのかなうたも
いつか
だれかのもとへ
響いていけるでしょうか
[No.7354] 2008/03/09(Sun) 20:50:07
◆コメント
「梅」と云う花の温かみ、朗らかさ、目出度さが、素敵に感ぜられました。
古代、花といえば梅のことで、それだけにこの春の知らせの花はあたたかい。
まほしさんのこの詩は匂い立つ梅の花を愛すべきものとして描けていると思います。
思い返せば、私は梅の花をモチーフに詩を作ったことが無いことに気づきました。
2
花 - door
無口な異国の囚人が
天井に汲み上げた井戸水に
マニキュアをしたヒバリたちが
静かに手を浸す
人の良い司会者は草むらに
こっそりサイダーの瓶を隠し
背広のボタンは飛び散って
その下を折り紙の電車が通る
風は冬にアイスクリームを食べすぎたから
歯を磨いて今はバナナのにおい
交差点に誰かが置き忘れたカンバスを見て
涙ぐんだ制服の少女は下着をそっと直す
マトリョーシカよ
背筋を伸ばせ
疲れた眼差しになる前に
[No.7357] 2008/03/10(Mon) 00:51:22
◆コメント
満天の空いっばいの星星を見ているようなイメージの氾濫がよいと思いました。
「異国」「囚人」「井戸水」「マニキュア」「ひばり」
第一連でこれだけのイメージが無理なく繋ぎ合わさって、この勢いが最後まで続いている。
心地よい空虚感を感じました。
3
ノイズ - door
私の体の中で
増え続ける白血球は
強く押さえ過ぎた笛の穴から
零れるノイズを
そっと包み込む
まるで皮膚と骨の間に
避妊具をつけたような感覚
秒針が刻む二拍三連のリズムだけが
耳の奥で少しずつ
ぶれてゆく
それは育っていた
あの時同じ書き割りの
夕暮れの前
ただ静かに台本を読む
祖母の化粧箱の中で
それは隠れていた
クイズの答えをこっそり
教えてもらい
小さい方のお菓子を頬張り
笑ってみせる
私のカバンの中に
毛穴から酸素が
抜けていくような痛み
テレビで繰り返し呼ばれる電話番号
めくり忘れたカレンダーのような
いつもの風景
無意識に伸ばした手が
倒したコップには
幼い字の名前と
萎れた花
私は慌てて口を押さえる
不協和音が鳴らないように
[No.7398] 2008/03/19(Wed) 03:42:
◆コメント
「まるで皮膚と骨の間に/避妊具をつけたような感覚」
この言葉の連なりに打ちのめされました。
これこそがタイトルの「ノイズ」の本質なのでしょうか。
doorさんの詩を二篇選びました。
私の神経によい共鳴がありましたので・・・。